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彼岸花

小学生の頃、1番苦手だった夏休みの宿題は読書感想文だった。

 

本を読むのが嫌いだったわけではなく、当時は何を読んで何を書けばよいのか…という事がわからなかった。
だから候補として挙げられていた推薦図書を読み、ただひたすらあらすじをなぞり、最後に「面白かったです」「◯◯が良かったと思いました」「○○に感動しました」等のお決まりのフレーズで締めていた。そう書いておけば絶対に非難されることがないという事を子供ながらに会得していた私はひたすらそうやって原稿用紙を埋めていた。そして、読書感想文なんてそんなものだと思っていた。

そんなある日、クラスの女の子の1人が読書感想文のコンクールか何かで賞をもらい、その文章を読んでとても驚いたのを今でもよく覚えている。
本のタイトルは忘れてしまったけれど、彼岸花について書かれた本だった。
そして彼女は本のあらすじなどにはほとんどふれず、彼女にとって彼岸花がどういうものなのか…というような、その具体的な内容は忘れてしまったけれど、真っ赤な彼岸花が目の前にサッと現れるような、鮮やかな文章だった。物語のあらすじをなぞっているだけの自分とは全く別のもので、私は初めてそうやって文章を書いてもいいんだという事を知った。

なぜこんな事を急に書いたかというと、今が彼岸花の季節だからです。先日散歩していて、彼岸花を見つけ、あぁ、もうそんな季節なんだなぁと思うと同時に、また彼女の読書感想文のことを思い出しました。

学校がすすめていた本は当時の自分には興味のないものが多く、それより小学生の頃、江戸川乱歩の推薦小説を熱心に読んでいたのだから、その感想文を書けばよかったな、と今なら思う。そういう選択肢に全く気付けてなかったな…そして今もあるはずなのに見えていない選択肢がきっとあるんだろうな、などとぼんやり思う。

おまけの白い彼岸花。初めて見た。